福岡高等裁判所宮崎支部 平成4年(ネ)15号 判決 1993年3月08日
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
一、控訴人らは、「原判決を取り消す。被控訴人の控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。
二、当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは原判決事実摘示と同じであるから、これを引用する。
1. 原判決五枚目表二行目「否認する」から同四行目末尾までを「認める。」と改める。
2. 同五枚目表七行目「同一人」の前に「土地の分割あるいは一部譲渡により、土地所有者がことさら袋地を生ぜしめた場合に関する規定であるから、」を加える。
3. 同五枚目裏一行目「原告」の前に「本件においては、土地所有者がことさら袋地を生ぜしめたものではないから、他の囲繞地の利用状況その他諸般の事情を勘案のうえ、通行権者のため必要で、かつ、囲繞地のため最も損害の少ない場所につき民法二一〇条、二一一条による有償の通行権を認めるべきであり、」を加える。
4. 同六枚目表五行目末尾に「これに比し、控訴人は、ショールームを兼ねた事務所を設ける目的で(一)(二)の土地を買い受けた(ただし、本件訴えのため(二)の土地については控訴人岩越名義のままで所有権移転登記を経ていない。)ものであるが、もともと国道に面した間口が狭すぎるきらいがあったところ、さらに本件通行権が認められるとなると、控訴人は右各土地を購入した目的を達することができず、その損害は極めて大きい。」を加える。
三、証拠の関係<略>
理由
一、当裁判所は、被控訴人の控訴人らに対する請求はいずれも理由があるものと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは原判決理由説示と同じであるから、これを引用する。
1. 原判決六枚目裏一〇行目「証拠」から同七枚目表五行目末尾までを「請求原因2の事実は当事者間に争いがない。」と改める。
2. 同七枚目表七行目「民法」から同八枚目表七行目末尾までを次のとおり改める。
「右事実によって考えるに、本件は、同一人が一団となった数筆の土地を所有し、その数筆の土地に各別に設定された担保権の実行による競売によって、数筆の各土地が異なる所有者の所有に帰し、その結果、公路に通じない土地(袋地)を生じたものであるが、かかる場合において、民法二一〇条の適用はなく、同法二一三条の準用による囲繞地通行権が発生するものと解すべきである。けだし、民法二一三条の規定は、共有地の分割あるいは土地の一部譲渡のように土地所有者の任意行為により袋地が生じた場合は、通行権の発生は当然に予期することができ、その対価も折り込まれるのが通常であるから、この場合には土地の分割あるいは一部譲渡と関係のない第三者の土地には迷惑を掛けず、当該土地の関係当事者間内部の問題として処理すべきであるとの理由から、囲繞地通行権は、当該分割あるいは一部譲渡の対象となった元の土地についてのみ発生し、かつ、償金の支払を要しないことを明らかにしたものであると解されるところ、この理は、一筆の土地の分割あるいは一部譲渡に限らず、同一人の所有に属する一団の数筆の土地が各別に譲渡される場合と何ら別異に解する理由はなく、また、元の一団の土地のみを通行すべきであると解する方が第三者への影響を及ぼさないこととなって、右規定の趣旨に合致するからである。そして、右譲渡が、任意の売買等ではなく担保権の実行としての競売によるものであるときも、何ら別異に解する理由はないものというべきである。なお、本件においては、一〇二八番三、四の土地と(一)、(二)の土地(ただし、競売当時は一〇二七番一の土地)に対する二個の競売手続が別々に進行し、一〇二八番三、四の土地を被控訴人が、(一)、(二)の土地を控訴人岩越が各競落し、その結果、一〇二八番三、四の土地が袋地となったものであるが、かかる場合においても、前所有者が一団の数筆の土地を各別に譲渡した場合と異なるところはなく、また、右各競売手続は同時期に進行していたのであり、控訴人岩越としても、公路に面した(一)、(二)の土地を取得することによって、一〇二八番三、四の土地が公路に通じない袋地となることを知ることができたというべきであるから、前示の趣旨に照らし、民法二一三条の囲繞地通行権の適用を否定すべき理由はないものというべきである。以上に反する控訴人らの主張は採用できない。」
3. 同八枚目裏四行目「被告ら」から同七行目末尾までを「右主張が、控訴人ら主張の右一団の土地について民法二一三条の囲繞地通行権の主張であるとすると、右一団の土地の分筆、譲渡がなされた当時にその各土地間に袋地が生じ、民法二一三条の囲繞地通行権が発生していたとの事実は全く認められないから、控訴人らの主張は失当であるし、また、右主張が民法二一〇条、二一一条の囲繞地通行権の主張であるとすると、前記判示のとおり、控訴人らの主張は採用することができない。」と改める。
二、よって、原判決は相当で、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。